大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)2114号 判決

原告

浅井一美

ほか一名

被告

五十部宏一

主文

一  被告は、原告浅井一美に対し、金一〇一万一三六二円とこれに対する平成二年四月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告三井海上火災保険株式会社に対し、金一二五万七六五七円とこれに対する平成二年九月二六日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告浅井一美に対し、金一三一万八〇八四円とこれに対する平成二年四月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告三井海上火災保険株式会社に対し、金一四三万七三二三円とこれに対する平成二年九月二六日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、左記一1の交通事故の発生を理由に、被告に対し、原告浅井一美(以下「原告浅井」という。)は民法七〇九条に基づき、損害保険業務を営む原告三井海上火災保険株式会社(以下「原告会社」という。)は、原告浅井に対して自動車対物賠償保険契約に基づいて保険金を支払つたことにより、被保険者である同原告に代位し、商法六六二条に基づき、それぞれその損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成二年四月二三日午前六時四〇分頃

(二) 場所 名古屋市中区金山一―八―二八先道路上(国道一九号線)

(三) 加害車 被告運転の普通貨物自動車(名古屋四七め六七八四)

(四) 被害車 原告浅井運転の普通乗用自動車(名古屋七七り二五六二)

(五) 態様 被告が、加害車を運転して前記事故発生場所を走行中、車線変更をして右側の車線に入ろうとしたところ、同車線を進行してきた原告浅井運転の被害車の左前部と加害車の右後部とが衝突したもの

二  争点

被告は、本件事故現場において、右ウインカーを出して合図し、バツクミラーで後方確認の上進路変更を開始したのであるから、被告には過失がなく、本件事故は、専ら原告浅井の大幅な制限速度超過による一方的過失により生じたものである旨出張して被告の過失について争つている。

第三争点に対する判断(なお、甲一は成立に争いがなく、甲二は原告本人により、その余の甲号証は弁論の全趣旨により、それぞれその成立が認められる。)

一  甲一、甲二、原告浅井一美本人、被告本人(後記信用しない部分を除く)及び弁論の全趣旨によると

1  本件事故現場は、片側五車線の南北に通ずる時速五〇キロメートルに速度規制された国道一九号線の見通しのよい南行車線上であり、現場付近の道路中央部には路面より約二〇センチメートルの高さで幅員約三メートルの中央分離帯が設けられて植木が植えられている。事故当日は少し雨が降り、雨に煙り視界は必らずしも良好とはいえない状況にあつた。

2  原告浅井は、スモールライトを点灯した被害車を運転して時速約六〇キロメートルの速度で第五車線(中央分離帯から一番目の車線)を南進中、その存在を二、三〇秒位前より気づいていた自車より遅い速度で第四車線を南進する加害車に左前方約三メートル付近にまで接近したところ、突然、加害車が右ウインカーを出すと同時に車線変更を開始し、車体の右半分位を第五車線内に侵入させたため、慌ててクラクシヨンを鳴らすとともにブレーキをかけ、ハンドルを右にきつたのであるが、結局避けることができず、自車の左側面前部を加害車の後部右側に衝突させ、その後、被害車は、中央分離帯を乗り越え、建設省中部地方建設局の管理する中央分離帯内の植木を損傷し、さらに反対車線に飛び出し、反対車線を北進中の訴外竹内敏夫及び同樋口真輝の運転する各車両に次々と衝突して同車線内で停車した。

3  被告は、時速約五〇キロメートルで加害車を運転して第四車線(中央分離帯より二番目の車線)を南に向かつて進行していたのであるが、本件事故現場付近において、前方を走行していた貨物自動車を追い越すべき、右ウインカーを出し、第五車線への車線変更を開始し、車体の右半分位が同車線内に進入したところ、被害車にクラクシヨンを鳴らされ、慌てて第四車線に戻ろうとしたが及ばず、右後部テールランプ付近の被害車左前部が接触するに至つた。なお、被告は、クラクシヨンを鳴らされるまで被害車の存在に気付いてはいなかつた。

以上の各事実を認めることができ、一部右認定に反する被告本人の供述部分は信用しない。

ところで、自動車を運転する者は、走行車線を変更するに際しては後方の安全を確認し、変更後の車線を後方から進行してくる車両等の速度または方向を急に変更させることになるおそれのある車線の変更はしてはならないところ(道路交通法二六条の二第二項)、右認定の事実からすると、仮に、被害車が第四車線を走行してきて本件事故の直前に車線変更をしたとすれば、被告は、バツクミラーにより加害車の真後ろから右にはみ出してくる被害車を確認できたであろうし、被害車が加害車のそれを相当程度上回る速度をだしていたからといつて、本件事故現場付近は見通しのよい直線道路であり、雨中でやや視界が悪いとはいえ、スモールライトを点灯している被害車を、被告がバツクミラーを確認してから車線変更を始めるまでのほんのわずかな時間に、バツクミラーでは確認できないはるか後方から加害車に追いついたとは到底考えることはできず、結局、本件事故は、被告がバツクミラーで後方の安全を確認しないまゝ第四車線から第五車線に車線を変更したことに起因して起きた事故であるというべきであり、被告の右後方安全確認注意義務違反の過失の免れ得ないことは明らかである。

しかしながら、本件事故の第一の責任は被告にあるとはいえ、原告浅井にも制限速度を約一〇キロメートル超過して被害車を進行させたという過失があり、右過失を考慮すると、本件事故は双方の過失があいまつて発生したというべく、その過失割合は、原告浅井三割に対して被告の七割とするが相当と考える。

二  そこで、次に原告らの蒙つた損害について検討する。

1  原告浅井

(一) 車両修理費(請求も同額) 一一五万二〇〇四円

甲三により認められる。

(二) 評価損(請求三四万五六〇一円) 一七万二八〇〇円

甲三によれば、被害車(チエイサー)は平成元年八月二二日に初年度登録され、その走行距離は一万八四四五キロメートルであることが認められ、これによると、本件事故と相当因果関係ある原告車両の評価損(格落ち)は、少くとも修理費用の一五パーセントである一七万二八〇〇円を下回ることはないと認めるのが相当である。

(三) 弁護士費用(請求一五万円) 一二万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として右金額を相当と認める。

2  原告会社

甲四の一・二、甲五・甲六の各一ないし三、原告浅井一美本人及び弁論の全趣旨によると、原告浅井は、原告会社との間で本件事故当時自動車対物賠償保険契約を締結しており、原告会社は右契約に基づき、本件事故によつて第三者に生じた左記内訳の損害の合計一七九万六六五四円を原告浅井に代つて右第三者にそれぞれ支払つたことが認められる。

第三者に生じた損害の内訳

(一) 中部地方建設局の中央分離帯の修復費二万二三一五円

(二) 竹内敏夫の車両修理費(一〇九万九四二二円)及び代車料(二五万六四七〇円) 計一三五万五八九二円

(三) 樋口真輝の車両修理代(三五万六六四七円)代車料(六万円)及び牽引費(一万二一八七円) 計四一万八四四七円

三  ところで、既に認定のように、本件事故は原告浅井の過失もあつて発生したものであるので、双方の過失を対比して、原告らに生じた前記損害からそれぞれ三割を減額するのを相当とする。

そうとすると、被告が賠償すべき損害額は、原告浅井に対して一〇一万一三六二円、原告会社に対しては一二五万七六五七円となる。

四  以上によれば、原告浅井の請求は、一〇一万一三六二円及びこれに対する本件事故当日である平成元年四月二三日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、また、原告会社の請求は、一二五万七六五七円及び原告会社が被告に支払いを求めた後であることが弁論の全趣旨により認められる平成二年九月二六日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 大橋英夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例